インフルエンザウイルスについて・その1

前回はこちら
DNAの構造、ウイルスの増殖方法と種類を説明してきて、ようやくインフルエンザのしくみにたどりついた。インフルエンザは1本鎖RNA(-)型だという事は前回説明した通り。増殖方法も説明した。今回、インフルエンザウイルスの場合における、ウイルスの構造と細胞内への進入方法を解説する。
生物の細胞は物質が出入り自由というわけでは無い。細胞には受容体(レセプター)という名前のタンパク質があり、これは言わば鍵穴に相当する。このレセプターに合う鍵を持つ物質のみ、細胞内に進入できる。ウイルスは、特定のレセプターを持つ細胞にのみ進入し、その細胞の中で増殖をする。(例えば、エイズウイルスはマクロファージという、免疫システムの中枢を担う細胞にダイレクトに進入して免疫システムを壊すが、これはエイズウイルスがマクロファージのレセプターに相性があるからで、これをウイルスの「種特異性」と言う)。
ではここからインフルエンザウイルスに話を移そう。まずはウイルスの構造から。wikipediaを参照の事。
wikipedia インフルエンザ A型インフルエンザウイルスの構造

  • まず、インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3種類があるが、まずはA型以外シカト。以下A型のみについて話す。
  • インフルエンザウイルスの外壁には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)があり、HAがレセプターと接合し、NAがレセプターを分解する。もやしもんのインスルエンザウイルスで8本出てるのは多分この2つ。他の要素はとりあえず無視。
  • これまでHAには15種類、NAには9種類の亜種が存在している。これらの組み合わせでウイルスは理論上135種類存在する。
  • 例えば、A型のHA5番目、NA1番目なら「A/H5N1」と表記する。最近新聞でインフルエンザの記事が載るとたいていこれが書いてある。
  • 歴史上、天然に存在し、ヒトに感染したのはH1N1、H2N2、H3N2の3種類だけ。これをヒトインフルエンザウイルスと呼ぶ。
  • 要するに、HAで鍵を開けて、NAで扉をぶっ壊さないと細胞内に進入できないので、両方が合わないと感染しないわけだ。
  • ただし、HAとNAが異なれば絶対に感染しないかと言うとそうではない、理由は後述。
  • 1918年、歴史上初めて流行したインフルエンザウイルスはA/H1N1型で、何しろ世界初の流行なため、人類の誰一人免疫を持っていなかったため、世界で5億人以上が感染し、4000万人以上が死亡した。もやしもん2巻P67に書いてある通り。
  • さて、ヒトインフルエンザウイルスがヒトの体内に侵入するとどうなるか。実はインフルエンザウイルスは気道の粘膜にしか感染できないのである。つまりインフルエンザウイルスに対応するレセプターを持つ細胞は気道粘膜上皮にしか存在しないのである。案外限定された場所でしか活動できないもんだが、それでもものすごい発熱と症状を伴う。ではこのインフルエンザウイルスのレセプターが、万一全身の細胞で対応したらどうなるだろうか……。これについては後述するので覚えておいてほしい。
  • さて、インフルエンザウイルスが細胞に進入しました。すると、ウイルスについてその1・その2で解説したように、一本鎖RNA(-)であるインフルエンザウイルスはどばっと増殖し、増殖の過程に伴って粘膜細胞が死滅しまくる。すると身体は免疫反応に従って、高熱を出して熱に弱いウイルスを死滅させようとし、咳や鼻水を出してウイルスを体外に排出しようとする。普通は1週間程度で完治するが、ウイルスが頑張っちゃうと、気管支炎、肺炎を起こして重症化する。
  • インフルエンザウイルスの増殖速度は、1個が感染すると、8時間後には最低100個、16時間後には1万個以上、24時間後には100万〜数千万個に達する。

以上が人間がインフルエンザウイルスに感染した場合の流れである。次回は、ヒトとトリとブタとインフルエンザウイルスがUFO研にいるとなぜヤヴァイかについて解説する。