インフルエンザウイルスについて・その2

ヒトとトリとブタとインフルエンザウイルスがUFO研にいるとなぜヤヴァイか。引き続き箇条書きで。
wikipedia インフルエンザ A型インフルエンザウイルスの構造

  • インフルエンザウイルスの中には8本のウイルスRNAが存在するが、1つの細胞の中に2つのインフルエンザウイルスが進入すると、8本×2個のウイルスRNAがまぜこぜになって、2^8で256種類の亜種ができる可能性がある①。
  • もっとも普通インフルエンザに感染するのは1つのウイルスが増殖しまくって悪化するので、体内のウイルス、ウイルスRNAは一種類の筈だが、インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼが結構頻繁にRNAのコピーミスをするので(でも数万回に1回くらい、1塩基間違えるくらい?)普通に感染する分には亜種が生まれる可能性は極めて低い(無いわけではない)②。
  • さて、では自然界に目を向けてみよう。自然界にはH1N1からN15N9まで、全ての亜種が存在する。
  • このうち、鳥のカモは全てのインフルエンザに感染する(レセプターが対応している)が、何と感染するだけで発病はしない。そしてカモは渡り鳥なので、ウイルスに感染したまま世界中を飛び回り、他の生物に感染させやがるのである。ふざけんじゃねぇ迷惑な。
  • ニワトリはH4,5,7,10、N1,2,4,7のタイプに感染する。が、ニワトリも普通のインフルエンザに感染しただけでは発病しない。人間の場合と同じく、限定した細胞にしか感染しないためである。このインフルエンザウイルスを「弱毒型インフルエンザウイルス」と言う③。
  • 人間に感染するのはH1N1、H2N2、H3N2だけなので、ニワトリのインフルエンザはヒトには本来感染しない。
  • しかし、②で書いた通り、ごく稀にインフルエンザは突然変異を起こし、「H5,H7型なのにヒトに感染するウイルス」という亜種が登場する場合がある。これが前回書いた「HAとNAが異なれば絶対に感染しないかと言うとそうではない」の例である。このタイプのインフルエンザウイルスのために、2003年〜2004年の間に世界で122人の感染者、25人の死亡者が確認されている。ただし、元々ヒトに感染しないタイプが運良く(悪く?)突然変異しただけなので、ヒトからヒトへの感染効率が悪く、大流行には至らなかった④。
  • ここでブタが登場する。ブタは人間と同じくH1N1、H3N2にしか感染しないので、本来はニワトリのインフルエンザには感染しない筈だが、④で書いた通り、ニワトリインフルエンザウイルスが気合でブタに感染してしまう場合がある。ニワトリとブタが同じ場所にいれば感染する可能性はより高くなる。
  • そしてブタはヒトインフルエンザにも感染する。するとどうなるか。ヒトインフルエンザウイルスとニワトリインフルエンザウイルスは相当異なる遺伝子を持っているが、①で書いた通り、1つの細胞の中で異なるウイスルが存在すると、全く組み合わせの異なる新型のウイルスが誕生する。これは突然変異に頼るより遥かに効率よく亜種を作ることが可能になる⑤。
  • そして、この新型インフルエンザウイルスが運良く(悪く?)ヒトからヒトに感染しやすいタイプになったとするとどうだろう。これまでに流行した事が無い、という事は誰も免疫を持ってない、しかもヒトからヒトへ伝染しやすい新型インフルエンザウイルスとなれば、またもや世界中でインフルエンザウイルスの大流行である⑥。
  • しかしここで話は終わらない。これまではニワトリが感染しても発病に至らない弱毒型ウイルスで話を進めてきた。が、前回、レセプターが気道粘膜のみでなく、全身の細胞で対応したらどうなるかという話をしたが、ここで、ニワトリが感染すると一発でニワトリが死んでしまう「強毒型インフルエンザウイルス」が登場する。
  • これはH5,H7型の亜種で、ニワトリに感染すると、気道粘膜だけでなく、全身の細胞が感染し、ニワトリが1〜2日で死亡してしまう恐ろしいウイルスである。昨今、養鶏場でトリインフルエンザが発病し、その養鶏場で飼っているニワトリを全処分しているのは、このインフルエンザに感染したためである。
  • これまで話したニワトリインフルエンザの話は、強毒型になってもそのまま通用する⑦。

ではここで話をまとめてみよう

  • ニワトリインフルエンザはヒトに感染しない③
  • ただし突然変異が起こると感染する④
  • ブタとニワトリを一緒に飼うと、突然変異のリスクは超高まる⑤
  • 弱毒型ニワトインフルエンザがヒトからヒトに感染するように変異しただけでヤヴァイ⑥
  • 強毒型ニワトインフルエンザがヒトからヒトに感染するように変異したら最高にヤヴァイ⑦
  • 最悪のシナリオの場合、1918年の伝播能力を持つ、強毒型ヒトインフルエンザができたら、世界の総人口の10%が死亡する可能性すらある

というわけである。
ではUFO研の部室を見てみると、とっくにヤヴァイ事になっている事がわかると思う。まず、既にニワトリが死んでいるという事は、初代のニワトリは強毒型ニワトリインフルエンザに感染していた事間違いなしである。2代目がピンピンしている事から、強毒型ニワトリインフルエンザは初代と共に滅んだ筈だが、ニワトリインフルエンザとヒトインフルエンザがブタで仲介し、突然変異を起こす可能性はまだまだ充分ある。つまり武藤さんが「やたらのんきな集団自殺」と言っているのは冗談でもなんでもなく、単なる事実なのであった。防疫班が出てきてサークル棟の全面封鎖処置も当然である。
さて、この15話ギャグは、DNA、ウイルス、インフルエンザ、レセプターのメカニズムを理解して初めて理解して笑える、と、まぁそんな大げさな話じゃ無いはずなんですが、真の理解を得ようとするならここまで勉強せにゃならんですかー、とマジで思った。16話で沢木が「樹先生のトコにいるんなら酒の勉強もしねェと」と言っているが、「もやしもんを楽しむなら化学の勉強もしねェと」とはマジで思う。「実際 DNAやウイルスについて調べるのは楽しかったしさ」。
もっとも、ようやくインフルエンザウイルスについての解説は終わったが、酒の分類や、発酵や、個々の菌についての解説は全然始まったばっかりなので、これからも引き続き書いていきたいと思う。