麦芽(モルト)

果実原料に引き続き、いよいよデンプン質が原料の酒を分類してみよう。その前に酒造りにとって、特に大事な材料について一章を割く。それが今回取り上げる大麦、つまり麦芽モルト)である。
大麦で酒の原料になるのは二条大麦。これは麦の穂に実が2列に並んでいる麦の種類である。同じように4列に並んでいるのを四条大麦、6列に並んでいるのを六条大麦と言うが、こちらは主に食用に使われている。二条大麦が使われるのは2列にしか並んでないため、麦の実が大きく、デンプンの含有率が高いためである。
前々から述べている通り、酵母はデンプン分解酵素「アミラーゼ」を持たないので、デンプンをブドウ糖まで糖化してやらないと「糖食べたらアルコール出ちゃった」にはならないのだが、実は大麦はこのアミラーゼを自前で持っているのである。麦の実にはデンプン質が豊富に含まれているが、麦が発芽する時、芽を育てる栄養にするためにデンプンを糖に分解するのだが、そのためにアミラーゼが分泌されるのである。大麦を酒造りに使うときは、この大麦の性質をそのまま利用する。
また、大麦の約75%がデンプン、約15%が水分だが、約7%程のタンパク質も含まれているので、タンパク質分解酵素「プロテアーゼ」も同時に分泌し、タンパク質をアミノ酸に分解し、やはり酵母の栄養源として使用する。

  1. まずは麦粒を浸水させる。水に浸し、ある程度まで漬けたらふやける前に一旦水を抜いて、しばらくしたら再び浸水させ…、を2〜3回繰り返して大麦の水分を42〜43%にする
  2. 次に床に麦粒を広げて敷き、適温で5〜10日(季節により異なる)攪拌しながら置くと、芽が麦粒から出るか出ないかの所まで育つ。この段階で酵素は活性化される。あんまり芽を育てすぎるとデンプンを使いきってしまうので注意。さらにこの段階でこれ以上芽が成長しないように、麦芽を乾燥させなければならない。温風で数時間乾かすと、芽の成長は止まる。この段階の麦を「緑麦芽」(グリーンモルト)と言う。
  3. さて、この次に麦を乾燥させるのだが、ここでウイスキーとビールで異なる。ウイスキーの場合は、ピート(泥炭)を使って独特の煙臭を付ける。これも燃料にピートしか使わない所もあれば、香付けのために機械乾燥にピート香を添付するものまでいろいろある。もちろんこれはウイスキーの味を左右する。さらにピートを炊く時間によっても焙煎度合が変わるので、焦げ過ぎないようにも注意する。
  4. ビールの場合は普通に機械乾燥させるが、この場合も乾燥温度には注意する。通常ピルスナー(日本の普通のビール)を造る場合は85℃くらいの温度で焙煎するが、黒ビールに加えるためのモルトは220℃まで加熱する。(ベルギービール博物館 麦芽の種類
  5. こうして麦芽モルト)が完成。麦芽にはデンプン質と、それを分解するためのアミラーゼ、タンパク質と、それを分解するためのプロテアーゼが含まれており、酒の材料にするにはもってこいのものである。次回はこの麦芽を使った酒、ウイスキーとビールについて述べる。

麦芽の製造工程はこれといっていいページが見つからなかった)