発酵について・基礎1

酒造りの基本になるのはS・セレビシエ(以下「酵母」)の「糖食べたらアルコール出ちゃった」だが、微生物である酵母が、直接糖をアルコールに変換する操作をしているわけではない。微生物がいくら小さいとは言え、微生物と分子の大きさの違いは1000倍以上あるので、微生物が直接手を加える事はできないのである。
ならば微生物の体内ではどうなっているのかと言うと、微生物の体内では「酵素」というタンパク質の一種が形成されているのである。タンパク質と言うと、我々、栄養素の一種としか捉えていないが、実は数千万種類があるとされている(wikipedia・蛋白質)。その数千万種それぞれに固有の働きがあり、そのタンパク質はDNAという設計図を、RNAに転写し、転写されたRNAを設計図に構築される。この辺は[化学・DNA]カテゴリでおいおい解説していくが、タンパク質について知っておきたい事は、

  • 数千万種類があり、それぞれに別の働きがある
  • DNAを元に作られる、DNAはタンパク質の設計図
  • タンパク質は20種類のアミノ酸が原材料

この3点を押さえておきたい。今回はスルーするが、アミノ酸とは何か、どんな働きをするかを書き始めると、それだけで本1冊分、この解説でも1章使ってしまうので、とりあえずスルー。ひとまずは、アミノ酸は、タンパク質の材料だというくらいで覚えておいて下さい。
なお、余談として、アミノ酸は20種類あるが、アミノ酸が少量(数十から数百)結合したものをペプチド、それ以上に結合したものをタンパク質と呼ぶ。アミノ酸が結合してできた仲間はホルモン、コラーゲン、それから赤血球、白血球の作成に間接的に作用する。要するに体内で生産されるものの全てに関わっていると言ってもいい、と言い切るほど勉強してないのだがいいのか。ちなみに、大豆ペプチドが身体にいい、というのはアミノ酸を単体で取り込むより、ペプチドというアミノ酸が結合している状態で体内に取り込んだ方がいっぱい取れて効率がいいねーという話らしいんだが、体内に取り込んだら結局タンパク質分解酵素(タンパク質を分解するタンパク質)でアミノ酸まで分解しないと体内では使えないわけで(タンパク質やペプチドで取り込んだアミノ酸は分解してアミノ酸単体にしてからそのまま使ったり、DNAでタンパク質に再合成してリサイクルする)、そのへんの手間の話はどうなのだろうか。余談(というか話題の先取り)終了。
(参考文献:有機化学美術館 世界最小のタンパク質 タンパクを壊すタンパク・プロテアーゼ

さて、これからタンパク質の中に酵素と呼ばれるものがある、という話をするのだが、その前にちょい予習、ブドウ糖グルコース)はC6H12O6の分子式を持ち、「もやしもん」第9話でセレビシエが食べている糖はブドウ糖である。このブドウ糖がいっぱい結合したものがデンプン(アミロース)であり、(C6H10O5)nの分子式で表される。オリゼーが分解しているヤツである。いっぱいというのはいくつとは一概には言えないが数千〜1万数千くらいと考えてよいかと。つまりデンプンを1つ1つバラバラにしたものがブドウ糖だと覚えておいて頂きたい。
では本題、タンパク質の中で、いきなり具体例を挙げるなら、ブドウ糖がいっぱい結合したデンプンを、ブドウ糖状態にほぐす「アミラーゼ」というものがある。オリゼーがめきめき作ってます。このアミラーゼのように、ある特待の化学物質(この場合はデンプン)に対してある特定の反応(ブドウ糖に分解)を起こし、なおかつ自分の性質が変化しない(アミラーゼはいくら働いてもアミラーゼのまま)ものを「酵素」と言う。
(11月26日付記:A.オリゼーはデンプンをブドウ糖に一発で分解できるアミラーゼは持ってない模様。7種類の酵素が必要らしい。一方、A.アワモリは一発で糖化できる酵素を持っているとの事。しかし、段階的にブドウ糖に分解する際の中間物質が、日本酒に味わいをもたらすらしい)
ではここでDNA、タンパク質、酵素というキーワードが出てきたのでまとめると。

  • 微生物はDNAからタンパク質を作り、そのうち酵素と呼ばれているものでさまざまな化学反応を行っている

という事になる。ちなみにその目的は、化学反応によって得られるエネルギーである。このエネルギーによって微生物は生きているのである。なお、このからくりは人間や他の動物も原理は同じで、人間も体内でいろいろな酵素を作っては、食べた食料を身体に都合のいいように化学反応して、生命を維持しているのである。複雑さは段違いだが、原理は同じである。よって沢木は「酒は酵母のウンコ」と言っているが、これは極めて正しい表現である。人間だってメシ食えば不要なものをウンコとして出すが、酵母のしているのも同じ事である。
さて、今日勉強した事は

  • タンパク質・酵素の正体と機能

である。次回は、実際に酵母がどのように「糖食べたらアルコール出ちゃった」しているかを考えてみたい。質問はコメントまで。